剣道の試合における反則について記す。
反則はときに致命傷となる場合があるので、よく理解しておく必要がある。
2019.04.21 update
反則の規程
剣道の試合における反則は、
全日本剣道連盟の試合・審判規則 、
および
高体連申し合わせ事項に規定されている。
反則は一試合を通じて積算される。
反則を2回犯すごとに、相手選手に一本が与えられる。これは絶対にやってはならない。
全日本剣道連盟の試合・審判規則では、反則は第15~17条に規程されている。規則にない事態が生じた場合は、第1条に照らし合わせて判断される。
全日本剣道連盟
剣道試合・審判規則
第1条
全日本剣道連盟の剣道試合につき、剣の理法を全うしつつ、公明正大に試合をし、適正公平に審判することを目的とする。
第15条
禁止物質を使用もしくは所持し、または禁止方法を実施すること。
第16条
審判員または相手に対し、非礼な言動をすること。
第17条
「反則」の宣告
反則を犯した場合、主審から「反則○回」と宣告を受ける。
その際は主審にむきなおって宣告を受け、一礼して相手選手にむきなおる。
その後、主審の宣告により、試合を再開する。
身体のむきを変えず、首だけで主審へ頷くようなことはしない。
よくある反則
高校生の試合でよく見られる反則は、以下の通り。
- 場外
- 鍔競り合いの3秒ルールに反する行為
- 時間空費
- 不当な鍔ぜり
試合の悪い流れを断ち切る場合や、相手の時間空費を目的とした接近から間合を切るために、
引き技等を打ってわざと場外に出る場合もある。
ただしこれは最後の手段であり、残り時間が短い状況でそのままでは敗北が決してしまう場合に限ると考えて良い。
非礼な言動
試合中に私語を発することは通常ないが、態度や挙動、暴力的な行為や無礼な振る舞いで
審判員や相手選手の品位を貶めたり、危険を及ぼす場合には、厳しく処断される。
試合云々以前に、剣道を志す者としてだけでなく、人間としての基本姿勢が問われる。
これらの行為をした選手は、1回で負けとなる。相手選手に二本を与え、退場させられる。
この選手の既得本数はなかったものとなる。
不正な用具
決められた規格に沿わない用具を試合で使うことは禁止されている。
武道具店で販売されている用具を使えば、通常は問題ない。
詳細は
試合・審判細則 の第3~5条を参照のこと。
竹刀のささくれや長過ぎる面紐は、その場で対処されるが反則となる訳ではない。
一番よくあるのは、新入生が4月の関東大会予選に出場する際の名札(ゼッケン)の不備である。
高体連では、ゼッケンは「黒地または紺地に白字で学校名と姓を記入した一枚布」と規程されている。
新入生はゼッケンの作成が間に合わず、「学校名がない(違う)」「別の布を貼り合わせたり、被せてある」状態で
大会に臨む場合があるが、これは不正用具の使用にあたる。
また、関東大会では事前検査で不正な竹刀が多数発見されるそうである。
重量が足りなかったり、先端部分が細すぎる、銘柄以外の文字が掘られている状態が該当する。
(竹刀については、
こちらも参照のこと。)
平成31年4月からは、剣道着の袖が短すぎる(構えた状態で肘関節が隠れていない長さで、安全性を確保できていない)場合は、不正用具としては扱わないものの、厳重注意がなされる。
試合で不正な用具を使用した場合は、負けとなる。相手選手に二本を与え、既得本数はなかったものとなる。
この処置は、不正用具使用の発見以前にまでは遡らないが、
高体連ではリーグ戦の全試合で二本負けの扱いとされる。
また、その選手は以後の試合に出場することはできない。トーナメント戦では補欠選手を出場させることはできる。
足を掛けるまたは払う
相手を倒すため、体勢を崩すために足を掛けたり、足を払う行為は反則となる。
試合の流れの中でたまたま相手の足を踏んでしまった場合等は、反則ではない。
近年、面打ちに対する抜き胴や返し胴を決めさせないために、すれ違いざまに相手の足をひっかけることがある。
このような行為は反則となる。
場外に出る
試合中に境界線から片足が全部、あるいはその他の体の一部が出た場合は反則となる。
足裏の一部が境界線上にかかっていれば、反則とはならない。
例えば両足の爪先がかかった状態は、場外反則ではない。
また、転倒した場合などに面紐や竹刀が場外に出ていても反則ではない。
片足が完全に出ている場合や、転倒した際に手足や頭など体の一部が出ていた場合は反則となる。
場外に竹刀をついて体を支えた場合も反則となる。
試合中に剣先が空中で場外に出たり、機材に当たってしまった場合は反則ではない。
不当に場外に出す
高校の試合では、通常「一打一押し」といわれる範囲の体当たりで、
相手が場外に出てしまった場合は出た方の選手が反則となる。
また、打突に結びつけるために相手を崩そうとしていた中で相手が出てしまったり、
通常の鍔競り合いのやりとりの中で相手が場外に出てしまった場合も、
やはり場外に出た選手の反則となる。
場外に出なかった選手の方が反則となるのは、一本を取るための打突と結びついていない場合である。
相手を場外反則にすることだけを狙って、
何度も相手を押したり、打突をせずに突進していくような行為は、「不当な押し出し」として出した側の選手の反則とみなされる。
ただし試合場の外側は断崖絶壁とみなし、
そこへ簡単に何の抵抗もなくやすやすと出されてしまう、
という状況は基本的に出た側の反則と考えた方が良い。
境界線を背負っている時に、相手選手の打突を体をさばいて避け、
相手選手の余勢も利用して、そのまま場外へ送り出すようなケースは場外に出た選手の反則になる。
竹刀を落とす
攻防の中で竹刀を払われたり、巻かれたりして竹刀を落とした場合は、
竹刀を落とした選手の反則となる。
自ら打突した際に、相手選手の道着等に引っかかった場合に取り落とす場合もあるので注意する。
空中に巻き上げられた竹刀を、落ちる前にキャッチしても反則となる。
ただし竹刀が両手から離れて、一瞬手につかなかった程度では、反則とはならない場合が多い。
完全に竹刀をコントロールできない状況が反則となる。
「不当な押し出し」と同様に、
竹刀を落とすことだけを狙って執拗に竹刀を叩くような行為は、落とさせた側の選手の反則となる。
打突に結びつく動きであれば反則とはならない。
なお、竹刀を落とした場合の対処については
こちらを参照のこと。
不当な中止要請
自分の不利な状況を脱するための中止要請(タイム)は反則となる。
「タイム」をかけて主審が「やめ」をかけた場合、
選手は中止要請をした理由を主審に説明しなければならない。
主審は、その内容によって不当か否かの判断をする。
こちらも参照のこと。
相手に手をかける、抱え込む
相手の体に手をかけて動きをおさえたり、
相手に抱きつくようにして攻撃を防ぐような行為は反則となる。
崩れた体勢や不利な状況で、防御のために反射的にやってしまう場合も含め、
故意にこれらの行為をすれば反則となる。
特に境界線際でもつれた場合や、竹刀を落としてしまった場合によく見られる。
相手の竹刀を握る、自分の竹刀の刃部を握る
試合中に竹刀で握って良いのは、自分の竹刀の柄だけである。それ以外を握ると反則となる。
防御のために反射的に相手の竹刀を握るようなことは高校生ではあまりないが、
自分の竹刀の中結や弦をなおすために、無意識に触ってしまうような選手が時々いる。
相手の打突が自分の拳に当たったり、鍔競り合いで相手の刃部に拳が当ってしまうようなケースは、
反則ではない。
相手の竹刀を抱える
相手の竹刀を抱えて、竹刀操作を妨害したり、相手の動きを妨げると反則となる。
胴を打たれた時に、抜かれる前に相手の竹刀を瞬間的に両腕と体で挟んで抜かせないことは許容範囲とされるが、
いつまでもその状況を継続させて相手の動きを封じていると反則になる。
また、意図的に左右どちらかの脇で相手の竹刀をはさんで、竹刀操作を妨害し続けると反則になる。
単に攻防の流れで脇に竹刀が入り込んでしまった場合や、剣道着等に竹刀が引っかかった場合は、
反則とはならない。
偶然にこのような状況になってしまった場合の対処については、
こちらも参照のこと。
相手の肩に竹刀をかける
意図的・継続的に相手の肩に竹刀をかけたり、置くような行為は反則となる。
この反則は鍔競り合いの形が崩れた状況でよく見られるが、
反則となるか否かの線引きがグレーな部分がある。
詳細は下記の
「不当な鍔競り合い」を参照のこと。
倒れた時にうつ伏せなどになる
転倒した場合に相手に対応する気持ちがなく、うつ伏せになったり蹲るような姿勢を取ると、
反則となる。
倒れても竹刀を構えよう、あるいは相手の攻撃に対して防御しよう、と相手に対応する姿勢が見られる場合は反則とはならない。
こちらも参照のこと。
時間空費
有利な状況のまま試合を終わらせたい場合など、時間稼ぎをするような行為は反則となる。
技を出さず、相手にも出させないように間合を詰めることを繰り返したり、
相手から打たれないように防御姿勢を取り続ける、
わざと倒れる、逃げまわる、鍔競り合いから離れようとしない等の具体的な行為と、
試合状況とをあわせ、
相手を攻める気配がなく態度も消極的な場合に、故意の時間空費と判断される。
ただし有利な状況を利用して試合を進めることは、戦略としては当然のことであり、
「無理をせずに無難な試合運びで、試合を進める(時間を使う)」こと自体は反則にならない。
攻めつつも確実でない場面では防御に転じたり、
距離をとりつつ相手の出端や打突後に絞って狙うといった作戦そのものは、反則となることはない。
不当な打突
故意に防具のない部分を打つことは危険でもあり、反則となる。
打突が外れたり、試合の流れの中で防具のない部分に当ってしまった場合は、反則とはしない。
選手がエキサイトして試合が荒れている場合に見られる。
度が過ぎる場合には非礼な言動として扱われ、負けになることもある。
不当な鍔競り合い
鍔競り合いにおいて、正しくない形で相手の動きや竹刀操作を妨害するような行為は反則となる。
正しい鍔競り合いの形とは、一足一刀の間合から中段の構えのまま近づき、
鍔と鍔が接して組みあい、相互に鍔元で圧力をかけ合っている状態とされている。
鍔と拳、拳と拳どうしが接している状態が長く続くと正しくない鍔ぜり、
すなわち「不当な鍔ぜり」と判断される。
鍔競り合いになった時、以下の項目に着目される。
- 正しい鍔競り合いをしているか
- 打突の意志はあるか
- 分かれる意志はあるか
これらすべてに該当しない内容の鍔競り合いは、反則とされる。
更にこれらの判断を鍔競り合いが始まって3秒以内に行わなければならない(
「鍔競り合いの3秒ルール」参照)。
これらを踏まえて、具体的には以下のようなケースが反則とされる。
「不当な鍔ぜり」
- 手元が上がっている
手元が上がって、拳と拳で競り合っている状態が継続されている。
力の入った場面では顔の前や頭上で押し合っている場合もある。
- 竹刀を交差させない
お互いが竹刀を立てて、竹刀がまったく交差しない状態が継続されている。
- 肘を曲げて相手に密着させている
相手の力を故意に吸収し、肘を曲げてふところを狭くして、相手に密着するような状態が継続されている。
- 意図的に裏交差を長く継続させる、あるいは何度も繰り返す
相手に打突されないために、裏交差の状態を持続させている。
相手の竹刀を裏から自分の方へ引きつけて、竹刀操作を妨害している場合もある。
- 拳を体の中心から外す
正しくは両拳が正中線の近くにあるはずだが、極端にずれている。
特に左拳が左腰付近にまで来ていることがある。
- 相手の肩に竹刀をかける
竹刀の表側あるいは裏側から、相手の肩に竹刀をかけた状態を継続している。
この行為は、一方の選手からの「お互いに分かれよう」という意思表示として使われる場合が多い。
そのまま分かれてしまえば問題はないが、肩にかけた方がその後すぐに引き技に転じたり、
相手側が応じるふりをして引き技に転じる場合もある。
相手の油断につけこんだ打突で、姑息とも言えるが、
打突そのものが有効打突の条件を満たしていれば一本になるのが現実である。
高体連では「まさに分かれようとする瞬間」やそれ以前の打突は認められており、
一方で「分かれる途中の近間・中間」での打突は反則として扱われる。
竹刀を肩にかけて分かれに移行しようとしている状況では、どこまでが打突してもOKで、どこからは反則なのかは、
主審の判断に委ねられており、範囲にバラつきがあるのが現実と言える。
分かれ際を打たれた場合は、打たれた選手の責任とされるので、あくまで油断なく分かれる必要がある。
- 拳が刃部に常にかかっている
一方の拳が相手の竹刀の刃部にかかっている状態が継続してされている。
- 打突につながらない崩しを、長く続けている
打突につながらない崩しを継続している。
一本にする意思がなく、打つふりを繰り返す行為は「時間空費」の反則となる。
「公正を害する行為」
- 相手を剣先で突き放す
「高体連申し合わせ事項」が適用される試合では発生しないが、
鍔ぜりから離れる際に有利な間合を取るために、剣先で相手を突き放す行為は反則とされる。
- 竹刀を押さえ込む、抱え込む
試合の流れの中から、竹刀が脇に挟まったり、抱え込んだような状態になることはあるが、
それを意図的に継続していると反則とされる。
- 拳で殴る
鍔競り合いになった瞬間や、相手の体勢を崩すために拳で相手の身体を押すことはあるが、
それが崩しの範囲を超えて「意図的に殴っている」状態と判断されれば反則となる。
- 一般的にみて異常な行為
その他に「通常の鍔競り合いとは思えない、違和感を感じる状況」と主審が判断すれば、
合議の上で反則となる場合がある。
審判規則の第1条にある「公明正大」に反すると判断された場合である。
「不当な鍔競り合い」の反則に示した内容は、いずれも攻防の中での瞬間的な状況では、反則とはならない。
また、以下のようなケースは反則とはならない。
- 技を出すための瞬間的な崩しや動作
- 技を出すためや、技につながる瞬間的な裏交差
鍔競り合いの3秒ルール
鍔競り合いは正しい形でおこない、一呼吸(およそ3秒)以内に技を出すか、
または相互に間合いを切って鍔競り合いを解消しなければならない。
これに反した選手、または反した状況を作り出す原因である選手は反則となる。
詳細は
こちらを参照のこと。