練習試合では、審判をやることも多い。
有効打突の判定は経験を積まなければ難しいが、
その判定に集中するために、所作や決まりごとに迷わないようにしたい。
2025.04.15 update
審判を上手になるためには
審判は、誰でも最初はうまくいかない。
以下によって、少しずつ上達していくことができる。
- ルールをよく理解する
- 試合を見る
すべてを自ら経験することはできないので、
多くの試合を見て、いろいろな技や状況を自分の経験則とする。
「自分ならどうする」という視点で見ることは、審判技術だけでなく剣道そのものの実力の底力を上げる。
- 経験を積む
剣道の技術と同様に、審判の技術も経験を積まないと向上しない。
なるべくたくさんの試合で審判をやって、経験を積むと良い。
特に1年生は、1年生のうちにたくさんの経験をしておくと良い。
2年生になると、1年生に教える立場となるからである。
審判の任務
審判の任務はいくつかあるが、まずは以下を理解しておきたい。
- 試合を運営する
適正かつ円滑に試合を進行し、活気ある試合にする。
また、試合状況全体をふまえて、有効打突や反則を判定する。
- 宣告と表示を明確におこなう
選手はもちろん周囲の人にも聞こえるように、大きく明確な声で発声し、
堂々とはっきり旗の表示をおこなう。
- お互いの旗を確認する
選手だけでなく、他の2名の審判もつねに視野に入れておく。
自分の旗の表示に対する他の審判の意思表示を確認するとともに、
他の審判の旗表示があった場合には、必ず自分の意思を旗で表示する。
審判の構成
通常、審判は主審1名と副審2名の計3名で構成される。
有効打突や反則の決定は3人の多数決によって決まり、その判定には同等の権限を持つ。
一方で主審はその試合を運営する中心的役割であり、以下は主審だけの役割となる。
- 宣告
試合の開始と中止、終了は、主審の宣告によっておこなう。
有効打突や反則の宣告もおこなう。
- 鍔競り合いや時間空費に関する反則の発議
場外や竹刀落としなど明確な反則は別として、
鍔競り合いや時間空費などは合議での確認と多数決をもって、反則とするか否かを決定する。
状況を判断して、合議をかけることができるのは主審だけの権限(専決事項)である。
初心者はまずは、副審で場数を踏むことから始めるのが良い。
判定
審判のうち1人が有効打突の表示をした時は、他の審判はいかなる場合も、
すぐに「有効打突と認める」「有効打突と認めない」「棄権」のいずれかを意思表示しなければならない。
2人以上が旗をあげた場合、あるいは1人が旗をあげ2人が棄権の場合に有効打突となる。
以下の場合は、いずれも「有効と認める」が過半数とならないので、有効打突とせず試合を継続させる。
- 1名が赤、1名が白、1名が棄権した場合
- 1名が赤、1名が棄権、1名が有効打突を認めない場合
反則は2人以上の旗の表示か、合議での意思表示による多数決があれば、反則となる。
(実際には旗の表示が1対2などと分かれる場合には、合議がおこなわれるのが普通である。分かれたまま多数決で決することは、まずない。)
反則の判定を棄権することはできない。
判定は他の審判の考えに追随するのではなく、自分自身の判断でおこなうようにする。
入退場と交代
ここでは練習試合や練成会で必要とされるであろう内容のみを記す。
公式戦での正式な審判をやる場合には、もっといろいろな振る舞いが規定されている。
団体戦
- 開始
3人の審判は並んで整列し、チームを整列させる。
主審の「(相互に)礼」の号令で、相互の礼をさせる。審判もあわせて一礼する。
副審は定位置へ移動する。
定位置についたら、旗をひろげて両手に持つ。
- 終了
すべての試合が終了したら、旗を巻く。副審は2人そろって最初の整列の位置に戻る。
主審の「(相互に)礼」の号令で、相互の礼とあわせて一礼する。
主審の号令で右または左をむき、3人とも(下座の方向へ)退場する。
個人戦
- 開始
3人の審判は試合場に入って整列し、主審の号令で一礼する。
副審は定位置へ移動する。
定位置についたら、旗をひろげて両手に持つ。
(選手はその後、試合場に入って相互に礼をする。)
- 終了
すべての試合が終了したら、旗を巻く。副審は2人そろって最初の整列の位置に戻る。
主審の号令で、3人あわせて一礼する。
主審の号令で右または左をむき、全員で(下座の方向へ)退場する。
交代
主審と副審がローテーションで交代する場合は、反時計回りにまわって交代する。
その際、旗は巻かずに右手にまとめて持つ。
3人以外の審判と交代する場合は、旗を巻き、互いに礼をしてから交代する。
新しく入る審判は定位置についてから、旗をひろげる。
ローテーションと交代を同時におこなう場合は、まずローテーションをしてから交代する。
旗の扱い
審判旗は丁寧に取り扱い、無様にならず自然に取り扱えるようにしておく。
- 旗の持ち方
柄の先端をてのひらで包み、人差し指を柄に添わせるように握る。
旗の先端は真下をむけ、体側にそわせて持つようにする。
柄の先端が手のひらからはみ出ていると、旗の先端は真下ではなく前に飛び出た状態になり、見苦しくなる。
- 旗のひろげ方
旗を片方の手のひらにのせて、両手で丁寧に解きひろげていく。
旗をクルクルと回して、粗雑にひろげてはならない。
3人の審判が定位置についたら、同時にひろげ始めるようにする。
- 旗の巻き方
白旗を先に1~2回ほど巻いてから、赤旗とあわせて巻き、
赤旗が外側になるようにする。
両方を同時に巻き始めると、白がはみ出したようになってしまう。
ひろげる時と同じように、両手で丁寧に巻く。
姿勢と移動
審判として端正な姿勢を取ることは、その判定への信頼を高める。
- 姿勢
両足のかかとを着け爪先を自然に開いた自然体で立ち、旗は体側にそって、真下を向けた姿勢が基本となる。
かかとが離れた「やすめ」の姿勢で立っていると、だらしなく見える。
- 移動
1歩だけの移動の時は送り足で、2歩以上の場合は歩み足を使って機敏に移動する。
選手の動きを正しく見るために、顔だけでなく体全体を試合者へ向けるようにする。
足を使わずに目だけで選手をおっていると、横をむいた姿勢になりやすい。
位置取り
常に選手の動きが見やすく、他の審判も視界に入る位置を取るようにする。
- 定位置
主審は試合場に入って礼をした位置、副審はそこから開始線の内側を通って移動した位置が、定位置となる。
こうしてできる二等辺三角形が、審判の基本的な位置関係となる。また、選手と審判の基本的な距離感となる。
- 位置取りの基本
主審は2人の選手を結ぶ中点を通る垂線上に位置する。
その主審を二等辺三角形の頂点として、副審が位置するのが基本である。
試合中の選手は激しく動き回るが、主審が率先して位置取りをおこなうことで、
副審がそれをフォローする位置に動きやすくなる。
移動範囲の基本は下図に色分けした通りであるが、これを越えて移動することもある。
移動は最短距離でおこない、境界線にそって動くばかりでなく、
斜めに切り込んで位置取りをする。
主審・副審ともに、背後の境界線に沿うような動きばかりで、前に出ていかない状況がありがちである。
選手の動きに応じて、前後左右斜めに移動しながら、基本の二等辺三角形を維持するように努める。
- 悪い例
右側の副審の位置が後ろすぎて、左側の副審の視界に入っていない。
右側の審判が旗の表示をしても、左側の審判は気づけない。
左側の審判が、選手を背後から見ている。
二人の打突はほとんど見えないので、有効打突の判断ができない。
また、このような位置にいると、首を伸ばして覗き込むような姿勢になりやすい。
二等辺三角形が広がって、正三角形に近くなってくると、
選手の動きによって、すぐに死角ができてしまう。
- 特殊な状況
主審が二等辺三角形の頂点になるのが基本だが、
選手の位置によっては副審が頂点に位置することもある。
3人の審判のスムーズに連携するためには、
選手だけでなく、他の審判の動きも視野におさめておく必要がある。
3人の審判が選手の片側だけに寄ってしまう状況を作ってはならない。
特殊な状況が解消したら、すみやかに基本の位置関係に戻る。
副審側の境界線近くでの攻防では、副審が頂点とならざるをえない。
開始線から90度回転したような状況は、位置取りが難しい場面となる。
境界線寄りであれば、副審が頂点となる方がベターである。
もし下図の状況で右側の頂点に主審がいる場合、選手の動きが時計回りになりそうなら、
右の副審が率先して主審と同側へ移動するようなフォローが大事となる。
さもないと、主審が最初の位置とは反対側へひとりで追い込まれてしまう。
下図のような位置取りであれば、選手がどちらに回転しても対応がしやすい。
宣告と旗の表示
- 試合の開始
状況 |
試合を始める。
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主審 |
定位置で基本の姿勢をとり、「はじめ」を宣告する。
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副審 |
定位置で基本の姿勢。
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旗の表示 |
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- 有効打突を認める
状況 |
打突に対して、自分が有効打突と判断する。
あるいは他の審判が有効打突と認めて旗の表示をおこなった時に、自分も有効打突と認める。
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主審 |
打突に対して自分の判断を旗で表示し、他の審判の旗を確認する。
有効打突が決定した場合は、有効打突が認められた選手の側の旗を表示し、「面あり(小手あり、胴あり、突きあり)」と宣告し、
旗を表示したまま定位置に戻る。(相打ちなどで自分が有効打突を認めた選手と逆の選手が有効打突と決定した場合は、旗の表示を切り替えてから宣告する。)
有効打突が決定しなかった場合は、ただちに旗の表示をやめ、基本の姿勢に戻る。(試合は継続される。)
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副審 |
打突に対して自分の判断を旗で表示する。
有効打突が決定した場合は、旗を表示したまま定位置に戻る。
有効打突が決定しなかった場合は、ただちに旗の表示をやめ、基本の姿勢に戻る。
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旗の表示 |
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- 有効打突を認めない
状況 |
他の審判が有効打突と認めて旗の表示をおこなった時に、自分は有効打突と認めない。
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主審 |
まずは打突に対して自分の判断を旗で表示し、他の審判の旗を確認する。
有効打突が決定した場合は、有効打突が認められた選手の側へ「有効打突を認める」と同じ旗の表示をおこなう。
「面あり(小手あり、胴あり、突きあり)」と宣告し、
旗を表示したまま定位置に戻る。
有効打突が決定しなかった場合は、ただちに旗の表示をやめ、基本の姿勢に戻る。(試合は継続される。)
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副審 |
打突に対して自分の判断を旗で表示する。
他の審判が自分の表示を確認した後、旗を振ることを止め、基本の姿勢に戻る。
有効打突が決定した場合は、定位置に戻る。
有効打突が決定しなかった場合は、そのまま試合は継続される。
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旗の表示 |
- 赤旗を前にして、交差するように両旗を前下で2~3回振る。
- 腕を伸ばして振ると大きく見える。小さく振ると、自信がなさそうになる。
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- 有効打突の判定を棄権する
状況 |
他の審判が有効打突と認めて旗の表示をおこなった時に、自分は判定を棄権する。
-
原則として「棄権」をしてはいけない。
たまたま打突部位が死角になってしまった場合に、やむをえず棄権する。
そもそも死角を作ってはならない。
また「判定に自信がない」という理由での棄権はダメである。
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主審 |
まずは打突に対して自分の判断を旗で表示し、他の審判の旗を確認する。
有効打突が決定した場合は、有効打突が認められた選手の側へ「有効打突を認める」と同じ旗の表示をおこなう。
「面あり(小手あり、胴あり、突きあり)」と宣告し、
旗を表示したまま定位置に戻る。
有効打突が決定しなかった場合は、ただちに旗の表示をやめ、基本の姿勢に戻る。(試合は継続される。)
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副審 |
打突に対して自分の判断を旗で表示する。
有効打突が決定した場合は、旗を表示したまま定位置に戻る。
有効打突が決定しなかった場合は、ただちに旗の表示をやめ、基本の姿勢に戻る。(試合は継続される。)
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旗の表示 |
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- 試合の中止
状況 |
以下のような場合に、試合を中止する。
- 試合時間の満了
- 反則
- 負傷や事故の発生
- 危険防止
- 竹刀操作ができない
- 合議をおこなう必要がある場合
- 選手からの中止要請(タイム)
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主審 |
旗の表示をおこない、「やめ」と宣告する。
双方の選手が確認したら旗を下ろす。
反則があった場合は、反則の旗の表示をおこなう。
その後、定位置へ戻って状況に応じた処置をおこなう。
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副審 |
中止の必要がある場面に主審が気づかなかった場合、あるいは主審よりも先に気がついた場合は、副審が中止の表示をする。
主審がそれを見て「やめ」をかける。
主審が先に「やめ」をかけた場合に、副審が中止の表示をする必要はない。
反則があった場合は、主審の「やめ」の宣告後、反則の旗の表示をおこなう。
定位置に戻る。
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旗の表示 |
- 両腕を並行にして、両旗を真上に上げる。
- 腕が左右に開いたり、肘を曲げたり、斜め前に上げたりしない。
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- 試合の再開(一本が決定した後)
状況 |
一本が決定した時
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主審 |
試合状況に応じて「二本目」または「勝負」と宣告する。
宣告と同時に、表示していた旗を下ろし、基本の姿勢に戻る。
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副審 |
主審の宣告と同時に、表示していた旗を下ろし、基本の姿勢に戻る。
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旗の表示 |
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- 試合の再開(中止の後)
状況 |
試合を中止して再開する場合。
または、延長戦を始める場合。
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主審 |
中止からの再開の場合は「はじめ」と宣告する。
延長戦を始める場合は「延長、はじめ」と宣告する。
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副審 |
定位置で基本の姿勢。
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旗の表示 |
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- 試合の終了(勝敗が決定した場合)
状況 |
一本が決定することで、勝敗も決定した場合。
または試合時間が満了したことで、勝敗が決定した場合。
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主審 |
試合時間が満了した場合は、勝者側の旗を上げる。
「勝負あり」と宣告する。
宣告後に旗を下ろして、基本の姿勢に戻る。
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副審 |
主審の宣告と同時に、表示していた旗を下ろし、基本の姿勢に戻る。
試合時間が満了の場合、副審は旗の表示をする必要はない。
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旗の表示 |
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- 試合の終了(引き分け)
状況 |
試合時間が満了したことで、引き分けとなる場合。
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主審 |
旗の表示をおこない、「引き分け」と宣告する。
宣告後に旗を下ろして、基本の姿勢に戻る。
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副審 |
定位置で基本の姿勢。
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旗の表示 |
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- 試合の終了(不戦勝ち)
状況 |
一方の選手が不在によって、不戦勝ちとなる場合。
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主審 |
選手が立礼の位置で礼をし、開始線まで進んで蹲踞をしてから立つまで待つ。
旗の表示をおこない、「勝負あり」と宣告する。
宣告後に旗を下ろして、基本の姿勢に戻る。
(選手は再び蹲踞をして納刀。下がって礼をする。)
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副審 |
定位置で基本の姿勢。
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旗の表示 |
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- 反則
状況 |
反則があった場合
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主審 |
合議の結果、反則と判定された場合は、旗の表示をおこなう。
(場外などの明らかな反則の場合は、既に表示を行っている。)
反則をした選手側の旗を、もう一方の手へ持ち替え、
反則者側の手で反則者に対して反則回数を示しながら「反則○回」と宣告する。
指差すような表示をしないことに注意する。
その後、基本の姿勢に戻る。
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副審 |
主審の宣告と同時に、表示していた旗を下ろし、基本の姿勢に戻る。
(合議での反則の場合は、副審は旗の表示をおこなわない。)
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旗の表示 |
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- 反則が2回となった場合
状況 |
2回の反則を犯してしまい、一本となる場合
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主審 |
反則の宣告に続けて「有効打突を認める」表示をおこない、
「一本あり」の宣告をおこなう。
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副審 |
定位置で基本の姿勢。
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旗の表示 |
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- 合議
状況 |
以下のような場合に、合議をおこなう。
- 有効打突や反則の判定の表示が曖昧であったり、赤白を間違えて錯誤していそうな場合。
- 時間空費や公正を害する行為など、明確でない反則を明らかにする場合。
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主審 |
旗の表示をおこない、「合議」と宣告する。
双方の選手を立礼の位置へ後退して正座させた後、
試合場の中央へ3人の審判は集合し、合議する。
その後、定位置へ戻って状況に応じた処置をおこなう。
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副審 |
主審の宣告があったら、試合場の中央へ3人の審判は集合し、合議する。
その後、定位置へ戻る。
副審から合議を発議したい場合は、合議の表示をする。(それを受けて主審が「合議」を宣告する。)
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旗の表示 |
- 両旗を右手にまとめて持ち、肘を伸ばして真上に上げる。
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- 分かれ
高校生が審判をやるケースで「分かれ」を適用することは、まず無い。
大学主催の試合などでは「分かれ」はあり得るので、知識として知っておけば良い。
状況 |
鍔競り合いが膠着している場合。
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主審 |
旗の表示をおこない、「分かれ」の宣告とともに、その場で両選手を分ける。
双方の選手の剣先が明確に離れたら、その場で「始め」の宣告をし、両旗を下ろす。
そのまま試合を継続する。
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副審 |
基本の姿勢で、3人の審判で連携して二等辺三角形の位置取りをする。
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旗の表示 |
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