剣道は何を競い合っているのかについて、入門的な考えを記す。
修錬を積んでいくと、各々で考えも拡がりを持つようになる。
2017.03.20 update
剣道は何を競い合うのか
サッカーでは相手のゴールネットを揺らす一点を取り合う。
そのために目の前にいる相手を技術や走力を使って抜き去る。
あるいはチームプレーによって相手を揺さぶり、作り出した一瞬の隙にシュートを決める。
サッカーの面白さは如何に相手を出し抜き、ゴールを決めることができるか、にあるのではなかろうか?
剣道は何を競い合うのだろうか?
競技として見た場合、剣道は有効打突の「一本」を取りあうものである。
「一本」は、力づくで振り回して当てるものであったり、
スピードに任せて競い合うことによって得られるものをさしているのではない。
「一本」を奪うためには、互いに相手を崩すなどして、隙を作り、好機を見出さなければならない。
隙は一瞬の間に生まれ、消えていく。
「見事な一本」とはそうした隙をいかに作り出し的確に捕らえたか、に対する評価でもある。
スピードやパワーも利用するが、それだけで「一本」が取れるほど単純なものではない。
あてずっぽうではない、人と人が向かい合った勝負・かけ引きの中で、
どのようにして鍛えた身体と技術を使って、「見事な一本」をとらえることができるか?
この一本をめぐる攻防にこそ、剣道の競技としての面白さや魅力がある。
そして、この一本をめぐるかけ引きの中に精神的要素も大きく関与しているため、
様々な「教え」も生まれてきた。
剣道の技術には日常にはない動きが多く、
高校では部活動を通じて、仲間と切磋琢磨しながら身体を強くするとともに、技術の修錬を積んでいく。
さらに鍛錬を通して、お互いの精神的な向上・成長も目指している。
勝負の内容に精神面も大きく影響する剣道では、
人間的な成長や向上なしには「一本」へ結びつけていくことは難しいからである。
本来、剣道を含めた現代の武道は勝つことを目的とはしていない。
現代における武道は、勝つことを目指して楽しみながら技術を身につけるだけのモノではなく、
心技体を鍛え、人格を磨き、道徳心を高め、礼節を尊重する態度を養う、日本固有の文化である。
他のスポーツでは当たり前のように行われる勝った時のガッツポーズも、剣道でやると一本は取り消されてしまう。
また、決められた場所に竹刀をヒットさせるだけでは「一本」にはならず、姿勢や気勢、打った後の態度も含めて評価される。
そして剣道では、「礼に始まり、礼をもって戦い、礼に終わる」ともよく言われる。
これらには「勝つことを目指すのは大事。しかし勝つことだけが大事なのではなく、
それを通じた人間形成こそが一番大事」という考え方が、よく表れている。
剣道はお互いに相手の動きに応じて攻防しあう対人的な競技であり、
勝負を通じた人間的向上を目指す者どうしが「見事な一本」を競い合うものである。
高校生の段階では、この考え方で十分でしょう。
この「一本」を目指して「心・技・体」を鍛え、人間力を高めるために、いろいろな稽古や経験を積んでいくことになる。