木刀による剣道基本技稽古法について

剣道の理念で特に重要なことは、「剣の理法」すなわち日本刀の理法ということである。
竹刀の操作は日本刀の観念で行うということであるが、その前提として日本刀を知るということが肝要となる。

木刀は日本刀の代用であるから、木刀の操作を修錬することによって剣の理法を理解することが、 特に基本の習得には効果的であろうことから、「木刀による剣道基本技稽古法」は作成された。
その基本的な目的は、おおよそ次の三点である。
  1. 竹刀は日本刀であるという観念を理解させ、日本刀に関する知識を養う。
  2. 木刀の操作によって、剣道の基本技を習得させ、応用技への発展を可能にする。
  3. この稽古法の習得によって、日本剣道形への移行を容易にする。
以上の三点の趣旨から、多くの技の中から取捨選択して幼少年向きに9本の基本技が選定されている。

このように「木刀による剣道基本技稽古法」は、 剣道の基本技術を習得させるため、「竹刀は日本刀」であるとの観念を基とし、 木刀を使用して「刀法の原理・理合」「作法の規範」を理解させるとともに、適正な対人的技能を中心に技を精選し指導するものである。

共通の留意点

審査上の留意点

進行の詳細

元立ち 掛り手
① 木刀を右手に提げ、下座で約3歩の距離で向かい合って正座し、木刀を右脇に刃部を内側に、鍔を膝頭に揃えて置き、相互に座礼をする。
  • 座礼の位置は、下座の中央が望ましい。(集団指導の場合は、座礼を省略しても良い。)
  • 正座と起立は、「左座右起」の作法に従っておこなう。正座は、左足を半歩引き左膝、右膝の順に座る。起立は右足から立ち上がる。
  • 正座や起立時には、跪居(ききょ)の動作から正座となり、または立ち上がる。跪居とは両膝をつき、爪先を立て、踵の上に尻を置く姿勢のことである。
  • 座礼は両手を同時につく。
② 右足から立ち上り、提刀のまま立会の間合に進み、先ず上座に立礼。その後、相互に立礼の後、木刀を左手に持ちかえると同時に左手の親指を鍔にかけて帯刀となる。
  • 提刀とは、木刀を右手に、刃を上にして自然に提げた状態である。
  • 帯刀とは、刀を帯に差すこと。または腰に差した状態をいう。刃を上に柄を前にして鍔元近くを左手で持ち、親指を鍔にかける。
  • 上座への立礼は約30度、相互の立礼は約15度で相手に注目して行う。
  • 木刀の持ちかえは概ね体の中央で行う。
  • 帯刀時の柄頭の位置は、正中線となるようにする。
③ 相互に右足から3歩踏み出して、蹲踞しながら木刀を抜き合わせ、横手あたりを交差させる。蹲踞は右自然体である。木刀を抜く際は右手で柄の鍔元を下から握り左斜め上から抜き極端に振りかぶらない。
④ 立ち上って中段の構えとなる。その後、構えを解き、左足から小さく5歩退がり、立会の位置に帰る。
元立ち 掛り手
「正面」
① 双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、「面(メン)」の掛け声とともに元立ちの正面を打つ。
② 打つ機会の与え方は、剣先をやや右に開く。
  • 合気で打つべき機会をつくり、正確に打たせる。
  • 姿勢を崩したり剣先を下げたりしない。
② 右足を1歩踏み出しながら大きく振りかぶって正面を打つ。
  • 振りかぶりは両腕の間から相手の全体が見える程度とする。
  • 振りかぶった時に剣先が両こぶしの高さより下がらないようにする。
  • 振りかぶりと打ちが一拍子となるようにする。
  • 「物打」で刃筋正しく正面を打つ。
  • 正面を打った時の左こぶしは鳩尾(みずおち)の高さあたりに納める。
  • 踏み込むと同時に左足を素早く引き付ける。
  • 動作は腰から始動する。
③ 面を打たせたままの体勢である。
③ 打った後、1歩後退して中段の構えとなり残心を示す。
④ 掛り手に合わせて中段の構えとなり「一足一刀の間合」に復する。
④ 更に1歩後退して、「一足一刀の間合」に復する。
「小手」
① 「一足一刀の間合」から「小手(コテ)」の掛け声とともに元立ちの小手を打つ。
② 打つ機会の与え方は、剣先をやや上に上げる。
  • 極端に剣先を左に開かないようにする。
② 右足を1歩踏み出しながら振りかぶり小手を打つ。
  • 振りかぶりは両腕の間から相手の右小手が見える程度とする。
  • 振りかぶりと打ちが一拍子となるようにする。
  • 手先だけでなく身体全体で打つ。
  • 目付は小手に注視せず相手の全体を見るようにする。
  • 面打ちと小手打ちとでは踏み出す距離が異なることを理解する。
③ 小手を打たせたままの体勢である。
③ 打った後、1歩後退して残心を示す。
④ 掛り手に合わせて中段の構えとなり「一足一刀の間合」に復する。
④ 更に1歩後退して、「一足一刀の間合」に復する。
「胴」
① 「一足一刀の間合」から「胴(ドウ)」の掛け声とともに元立ちの「胴(右胴)」を打つ。
② 打つ機会の与え方は手元を上げる。
  • 振りかぶる要領は、手元をまっすぐに大きく上げる。
② 右足を1歩踏み出しながら大きく振りかぶって頭上で手を返し、相手に正対して右胴を打つ。
  • 振りかぶりから胴打ちまでの動作は、一拍子である。
  • 体を右斜め前にさばかない。
  • 腰を引いたり上体をねじ曲げたりしない。
  • 打った時の左拳は正中線上に納める。
  • 刃筋正しく打ち、平打ち(鎬で打つ)にならないようにする。
③ 胴を打たせたままの体勢である。
③ 打った後、1歩後退して残心を示す。
④ 掛り手に合わせて中段の構えとなり「一足一刀の間合」に復する。
④ 更に1歩後退して、「一足一刀の間合」に復する。
「突き」
① 「一足一刀の間合」から「突(ツキ)」の掛け声とともに元立ちの咽喉部を突く。
② 突く機会の与え方は、剣先をやや右下に下げる。
  • 1歩後退しながら突かせる。
  • 剣先を極端に下げない。
② 右足を1歩踏み出して体を進め、咽喉部を突き、突いた後は直ちに手元を戻す。
  • 突き技については、初歩の段階でその基本を理解させようとするもので、手技にならないよう意識的に腰から体を進めて突くようにする。
  • 左足を素早く引き付けながら突く。
  • 突いた時の左こぶしは正中線上の下腹に納め、上がらないようにする。
  • 刃先は下を向き、突きっぱなしにしない。
③ 突かせたままの体勢である。
③ 突いた後、1歩後退して残心を示す。
④ 掛り手に合わせて、横手あたりの交差になりながら1歩前進して元に復す。
④ 更に1歩後退して横手あたりの交差になりながら元に復す。
⑤ 動作が終ったら構えを解き、双方左足から歩み足で小さく5歩後退して立会の間合に復し、中段の構えとなる。
元立ち 掛り手
① 双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
剣先をやや上に上げて右小手を打たせる。
② 右足を1歩踏み出しながら振りかぶって右小手を打つ。
  • 「小手(コテ)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 小手に目が移りやすいので、相手の目を見ながら打つようにする。
  • 小手打ちの後は、剣先を相手の正中線から外さないようにする。
  • 左足を素早く引き付ける。
③ 左足から1歩後退しながら剣先をやや右に開いて正面を打たせる。
  • 剣先を下げて開かないようにする。
③ 相手の退くところを更に右足を1歩踏み出して正面を打つ。
  • 「面(メン)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 小手を打った勢いを利用して素早く振り上げ、一拍子で正面を打つようにする。
④ 面を打たせたままの体勢である。
④ 打った後、1歩後退して残心を示す。
⑤ 掛り手に合わせて中段の構えとなり「一足一刀の間合」になる。
⑤ 更に1歩後退して、「一足一刀の間合」になる。
⑥ 掛り手に合わせて1歩前進し元に復する。
⑥ 1歩後退して横手あたりの交差になりながら元に復する。
⑦ 動作が終ったら構えを解き、双方左足から歩み足で小さく5歩後退して立会の間合に復し、中段の構えとなる。
元立ち 掛り手
① 双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
② 木刀を払い上げられて中段の構えが崩れる。
② 右足を1歩踏み出しながら、表鎬(左鎬)を使って払い上げて相手の構えを崩し、そのまま面を打つ。
  • 「面(メン)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 半円を描く気持ちで、払い上げ、払いと打ちが一拍子になるようにする。
  • 手先だけで払いがちになるので、右足を踏み出しながら払うようにする。
③ 払われたままの体勢である。
③ 打った後、1歩後退して残心を示す。
④ 掛り手に合わせて元に復する。
④ 更に1歩後退して元に復する。
⑤ 動作が終ったら構えを解き、双方左足から歩み足で小さく5歩後退して立会の間合に復し、中段の構えとなる。
元立ち 掛り手
① 双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
② その場で両手を伸ばして表鎬(左鎬)で応じる。
  • 刃部で受け止めないようにする。
  • 相手の木刀を表鎬(左鎬)で「すり上げる」要領で迎え、その場で応じる。
② 右足を1歩踏み出しながら正面を打つ。
  • 「面(メン)」の掛け声とともに打つ。補足
③ 双方やや前進して鍔ぜり合いとなる。鍔ぜり合いは木刀を少し右斜めにして手元を下げ、下腹部に力を入れて自分の体の中心を確実に保つようにする。鍔と鍔でせり合って攻撃の機会をつくる。
④ 反発して押し返す(押し上げる)。
④ 相手の鍔元を押し下げる。
⑤ 手元が上がる。
⑤ 手元が上がる反動を利用して、左足を退きながら振りかぶり、右足を引き付けると同時に右胴を打つ。
  • 「胴(ドウ)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 手元が上がった機会を捉え、体勢を崩さず刃筋正しく右胴を打つ。
⑥ 打たれたままの体勢である。
⑥ 打った後、1歩後退して残心を示す。
⑦ 双方1歩後退して元に復する。
⑧ 動作が終ったら構えを解き、双方左足から歩み足で小さく5歩後退して立会の間合に復し、中段の構えとなる。
元立ち 掛り手
① 双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
② 右足を1歩踏み出しながら正面を打つ。
  • 「面(メン)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 目付は相手から外さない。
  • 面を打ったままの体勢である。
② 右足をやや斜め前に出しながら振りかぶり右胴を打つ。
  • 「胴(ドウ)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 足さばきは「送り足」で行い、抜きと打ちが一連の動作となるようにする。
  • 左手は正中線上から外さずに刃筋正しく右胴を打つ。
  • 目付は相手から外さない。
  • 右胴を打った体勢である。
③ 打った後、双方とも正対しながら1歩後退し、掛り手は残心を示す。
  • 「一足一刀の間合」くらいの交差が適当である。
④ その後、双方とも左に移動して元に復する。
  • 一歩で元に戻らなくてもよい。
⑤ 動作が終ったら構えを解き、双方左足から歩み足で小さく5歩後退して立会の間合に復し、中段の構えとなる。
元立ち 掛り手
① 双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
② 右足を1歩踏み出しながら右小手を打つ。
  • 「小手(コテ)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 右小手を刃筋正しく打つ。
  • すり上げられたら手の内を緩め、剣先は自然に体側から外れる。
② 左足から1歩後退しながら裏鎬(右鎬)ですり上げ、すかさず右足から1歩踏み出して正面を打つ。
  • 「面(メン)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 足さばきを正確にして腰を引かない(姿勢を崩さない)ようにする。
  • 「物打」あたりの鎬で半円を描くようにすり上げる。
  • すり上げと正面打ちが一連の動作となるようにする。
③ 正面を打たれた後、同時に掛り手に合わせて、中段の構えになりながら一歩後退して元に復す。
③ 打った後、残心を示しつつ、一歩後退して元に復する。
④ 動作が終ったら構えを解き、双方左足から歩み足で小さく5歩後退して立会の間合に復し、中段の構えとなる。
「基本7 出ばな技」は、「応じ技」の中に配列されているが、これは技の難易度を考慮して、技およびその構成の7番目に配列されたものである。
「出ばな技」は、技の分類としては「しかけ技」に分類されるものである。
元立ち 掛り手
① 双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
② 右足をやや前に出しながら打ち込もうとして剣先を上げようとする。
  • 合気となり、鋭く打ち込もうとする気迫が大切である。
② 「起こり頭」を捉え、右足から1歩踏み出しながら小技で素早く鋭く小手を打つ。
  • 「小手(コテ)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 一瞬の機会を逃さないように姿勢を崩さず身体全体で鋭く打つ。
③ 打とうとしたままの体勢である。
③ 打った後、1歩後退して残心を示す。
④ 右足を退き掛り手に合わせて元に復する。
④ 更に1歩後退して元に復する。
④ 動作が終ったら構えを解き、双方左足から歩み足で小さく5歩後退して立会の間合に復し、中段の構えとなる。
元立ち 掛り手
① 双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
② 右足を1歩踏み出しながら正面を打つ。
  • 「面(メン)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 目付は相手から外さない。
  • 正面を打ったままの体勢である。
② 右足をやや斜め前に出しながら表鎬(左鎬)で迎えるように応じ、すかさず手を返して右斜め前に出ながら右胴を打つ。
  • すり上げる要領で応じ、応じと返して打つのとが一拍子になるようにする。
  • 「胴(ドウ)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 左手は正中線から外さずに「送り足」で刃筋正しく打つ。
  • 目付は相手から外さない。
  • 右胴を打った体勢である。
③ 打った後、双方とも正対しながら1歩後退し、掛り手は残心を示す。
  • 「一足一刀の間合」くらいの交差が適当である。
④ その後、双方とも左に移動して元に復する。
  • 一歩で元に戻らなくてもよい。
⑤ 動作が終ったら構えを解き、双方左足から歩み足で小さく5歩後退して立会の間合に復し、中段の構えとなる。
元立ち 掛り手
① 双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
② 右足を1歩踏み出しながら正胴を打つ。
  • まっすぐ振りかぶり、刃筋正しく右胴を打つ。
  • 「胴(ドウ)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 目付は相手から外さない。
② 左足からやや左斜め後ろにさばくと同時に、刃部の「物打」付近で斜め右下方向に打ち落とし、すかさず右足を踏み出して正面を打つ。
  • 滑らかな足さばきで鋭く打ち落とし、すかさず間合を勘案しながら正面を打つ。
  • 「面(メン)」の掛け声とともに打つ。補足
  • 打ち落としと正面打ちが一拍子になるようにする。
  • 打ち落とす時、相手から目を離さない。
③ 双方とも正対しながら1歩後退し、掛り手は残心を示す。
  • 「一足一刀の間合」くらいの交差が適当である。
④ その後、双方とも右に移動して元に復する。
  • 一歩で元に戻らなくてもよい。
元立ち 掛り手
① 最後の演武が終了したら、蹲踞して木刀を納め、立ち上って帯刀のまま小さく5歩退がる。
② 右手に持ちかえて提刀となり、相互の立礼の後、上座に立礼をする。
③ 下座に戻り座礼をする。
④ 木刀を持って立ち上がり、掛り手は元立ちの進路をあけ、元立ちにしたがって退場する。